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症例紹介・コラム

  • 動物医療の外科手術の世界

    苅谷動物病院グループでは多様な症例において外科手術を行います。疾患や術式はさまざまですが、外科手術を要する代表的な症例について実際に手術を行う獣医師が解説します。 腹腔鏡手術とは 腹腔鏡下手術は、腹部の複数の小さな切開部位から内視鏡(カメラ)や手術器具を挿入し、モニターに映し出される画像を見ながら行う手術です。人の医療分野では、負担の少なさや手術成績の向上が得られることから急速に発展し、今ではごく一般的な手術方法になりました。動物の医療でも徐々に広がっており、注目されている新しい手術方法です。 腹腔鏡手術のメリット・デメリット 腹腔鏡下手術は大きくお腹を切る必要がなく、腸を触ったり外気にさらすことがありません。また、深い場所にある臓器を体腔外に引っ張り出す必要がなく、臓器の牽引による痛みも発生しません。モニターに拡大して映し出された鮮明な視野で手術を行うため、肉眼では気づかない小さな血管も目視でき、出血量を少なくできるという特徴があります。そのため、同じ目的であれば腹腔鏡下手術で実施した方が、手術後の動物が元気で痛がる様子が少なく、手術後すぐでも食欲が低下しにくいという利点があります。 一方、手術の感覚は開腹手術に比べより繊細なため、手術を行う術者、助手、外回り(※)の看護師からなる手術チームの熟練が求められます。また、非常に高価な専用の機材が必要であり、これらの理由から腹腔鏡下手術を導入するハードルは高く、実施できる施設は限られているのが現状です。手術はその目的により、腹腔鏡が向いている手術とそうでない手術があリます。腹腔鏡は狭い範囲での細やかな作業は非常に得意ですが、大きな腫瘍の摘出や胃腸の異物摘出など腹腔の広範囲にわたる手術には向いていないという特徴があります。 現在、葛西橋通り病院では多くの動物に腹腔鏡下避妊手術を行っており、腹腔内潜在精巣の摘出、肝臓・膵臓など臓器の生検、膀胱結石摘出など、ほかの手術にも適応を広げています。※手術全般の進行をサポートする役割 ■腹腔鏡下避妊手術 腹腔鏡下の避妊手術は日帰り手術です。食事は当日の夜から可能です。手術直後はいつもよりおとなしいですが、普通に歩き回ったり、自分でトイレで排泄ができます。手術から3日もすると、おもちゃを持って走り回ったり、安静が難しいくらい元気になります。10日後の抜糸までは傷口を保護するための洋服を着て生活します。実際の手術画像でどのような手術なのかをご説明します。 ■腹腔鏡補助下膀胱結石摘出術 まとめ 今後さまざまな手術で、開腹手術と腹腔鏡手術を選択できるようになるでしょう。苅谷動物病院グループでは今後も動物にとって負担が少なく、回復が早く、低侵襲(ていしんしゅう)※1な外科治療をご提供できるよう努力してまいります。※1できるだけ身体を傷つけず負担も少ないこと 腹腔鏡下手術の解説や料金についてはホームページでもご覧いただけます。■犬の去勢・避妊手術の方法を解説!■腹腔鏡下避妊手術(2歳未満の場合)※2歳以上の場合の料金については、動物の状態に応じて麻酔薬などを変更・調節する必要があるため、詳細を伺った後、個別にお見積りをさせていただきます。 犬の肺腫瘍摘出術 肺腺癌とは? 犬の原発性肺腫瘍はすべての腫瘍症例の1%以下であり、人と比較して稀な疾患と報告されています。犬の肺腫瘍が診断される年齢は平均10歳と高齢であり、ほとんどが悪性です。種類としては肺腺癌が最も多く、その他、比較的稀な肺腫瘍として腺扁平上皮癌や扁平上皮癌、間葉系腫瘍が認められます。犬種や性別による特異性は報告されていません。 症状 初期には特に症状がなく、健康診断やほかの疾患精査の際のX線検査で偶発的に発見されるケースが多く認められます。病気の進行に伴い、発咳、頻呼吸、運動不耐性、食欲不振、体重減少などの症状を呈します。 治療 腫瘍が孤立性で転移所見がない場合には外科療法が第一選択として推奨されます。薬物療法や放射線治療は切除不能または転移症例に適応とされていますが、外科療法による完全切除後の補助療法としても報告されています。一般的な術式としては肋間切開アプローチにより開胸し、目的の肺葉を基部から切除、摘出します。術後は数日間、胸腔内に設置したドレーンチューブから貯留する液体や空気を抜去し、貯留が認められなくなれば退院となります。 予後因子としては腫瘍の大きさ、発生部位、病理組織分類、症状の有無、リンパ節転移の有無などが挙げられます。これらの予後因子が良い場合には平均1年半以上の生存期間、悪い場合には平均1~2カ月の生存期間であったと報告されています。 猫の尿管結石 猫の尿管閉塞の原因としては結石が最も多く、その構成成分は98%以上がシュウ酸カルシウムであると報告されています。その他、尿管閉塞が起こる原因としては血餅や炎症産物や線維化、腫瘍、外傷、ミネラルなどの栓塞子が挙げられます、猫の尿管は直径1㎜程度と非常に細いため、極小の結石や栓塞子等により容易に閉塞、線維化を生じます。 症状 腎臓、尿管は左右に存在するため、片側性に閉塞が生じても反対側の腎臓の機能が正常な場合、重篤な症状を呈さず偶発的に発見されることがあります。しかし、反対側の腎臓の機能低下や両側性の閉塞が認められた場合には急性腎障害を生じ、脱水、嘔吐、元気食欲不振、沈鬱、乏尿、無尿などの徴候が認められ、更に病状が進行、悪化した場合には徐脈、不整脈、虚脱、痙攣などの症状を呈します。 治療 内科治療の奏効率は低いとされ、早期の外科介入が必要なケースが多く認められます。外科治療には主に尿管切開術、尿管-膀胱吻合術、尿管ステント設置術、SUBシステム設置術※の術式があり、症例の重症度、尿管結石の閉塞位置や個数などにより術式の選択がされます。SUBシステム設置術はすべての尿管閉塞に適応可能ですが、特に非常に重篤な症例(手術時間の短縮)、近位尿管の閉塞、多数の尿管結石や腎結石が存在する場合、膀胱腫瘍に起因する尿管閉塞などのケースで高い有益性を示します。 ※SUBシステム設置術:腎臓と膀胱をつなぐ管を体内に設置する手術 尿管閉塞症例 SUBシステム設置術症例 尿管―膀胱吻合術症例 尿管―膀胱吻合 尿管切開術症例 胸腰部椎間板ヘルニア 椎間板は、背骨を形成する骨と骨の間の関節にあり、関節のクッションとして背骨に柔軟性を与えています。椎間板ヘルニアは、遺伝的素因、加齢に伴う椎間板の変性、外傷などの結果、椎間板中心の髄核が突出したり、線維輪が脆弱化よって変形し、それらが脊髄腔内に突出することによって発症します。 症状 椎間板ヘルニアが発生した部位は、出血、炎症、圧迫により脊髄神経の障害が起きます。症状は、障害の程度によりさまざまで、軽症例では腰痛、歩行異常、食欲低下などが認められます。重症例では、受傷部位の神経麻痺の結果、歩けない、立てない、排尿ができないなどの症状が認められます。 また、椎間板ヘルニアを発症したうちの3~6%程度は進行性脊髄軟化症に移行する可能性があります(椎間板ヘルニアの二次損傷によって進行性に脊髄神経が融解壊死する病気)。進行性脊髄軟化症を発症すると有効な治療法がなく、1週間前後で呼吸不全になり死亡します。 グレード1背部痛のみ、神経学的な異常なしグレード2後肢のふらつき、歩行可能グレード3歩行困難+自力排尿可能グレード4歩行困難+自力排尿不可能グレード5歩行困難+自力排尿不可能+深部痛覚の消失 診断 診察時に、症状と神経学的検査から椎間板ヘルニアが疑われた場合には、C T検査やM R I検査を行い、病変部位の特定を行います。一般的なX線検査では、診断することはできません。診断精度が一番高いのはM R I検査で、大事な神経の状態を把握することができます。 治療 椎間板ヘルニアの軽症例は、安静にすること、痛み止めの服用などで治療します。グレード3以上の麻痺や不全麻痺が認められ、起立や歩行が難しい場合は外科手術の検討が必要です。 手術には、骨の一部を取り除いて穴を開ける片側椎弓切除術(ヘミラミネクトミー)や背側椎弓切除術(ドーサルラミネクトミー)があります。問題となっている椎間板物質は、その穴から取り除かれ、神経の圧迫は解除されます。手術後は、筋力の回復や歩行の改善を目標にリハビリを行います。 犬の悪性黒色腫(メラノーマ) メラニン産生細胞に由来する腫瘍で、その発生は犬では口腔が最も多く、口唇、皮膚、爪床(そうしょう)などに認められます。特に口腔、口唇、爪床に発生するものは高悪性度であることが多く、腫瘍と関連のあるリンパ節や肺、肝臓などに転移を起こしやすく大変進行が早いという特徴があります。ゴールデン・レトリーバー、スコティッシュ・テリア、トイ・プードル、ミニチュア・ダックスフンド、ビーグルが好発犬種とされています。 症状 一般的に口腔内や口唇、皮膚、爪床などに黒色の腫瘤として認められます。中には黒色の色素を欠くものもあり必ずしも黒色ではありません。腫瘤の進行により表面に潰瘍や出血を認めることもあります。 診断 腫瘤の針吸引生検(FNA)による細胞診や腫瘤組織の切除による病理組織検査で行います。 治療 第一選択は早期の外科的摘出です。摘出後の補助治療として抗がん剤治療や放射線療法などがあげられます。 治療計画を立てるため、CT検査やX線検査、超音波検査等の画像検査や領域リンパ節を含めた検査を実施し、腫瘍の広がりを可能な限り確認します。そして解剖学的、機能的な側面も検討し切除可能か判断します。病態のステージによりその後の経過は異なりますが、悪性黒色腫は転移も高率に認められ、進行も早い悪性腫瘍です。可能な限り広範囲の切除を行います。悪性黒色腫は、適切な切除がなされ、術前・術中検査で転移が認められなくても、術後の転移が多く報告されています。 また、早期発見、早期の手術による治療が行われ、治療部位での再発を認めない良好なケースでも転移が認められることがあります。転移や進行したケースでもQOL(生活の質)の改善のため、外科治療を適応することもあります。悪性黒色腫の治療のような広範囲の切除を伴う手術は、時に動物の外貌やその機能、QOLを大きく変化させることもあります。私たちは治療に際して、その後の生活や機能を考え、病気の苦痛を少しでも取り除けるように常に努力を続けています。 爪床悪性黒色腫 転移巣手術

  • 食事が原因となる皮膚・消化器疾患について徹底解説 市販食と家庭調理食のメリット・デメリットも!

    当院に来院される飼い主様からも多くの関心が寄せられる「ペットの食事」にまつわるお話について、深掘りします。食べ物が原因で皮膚に痒みが出る場合もあれば、下痢・嘔吐などの消化器症状が出る場合も。ここではそれぞれのケースの症状から治療について、詳しく解説致します。 ~皮膚編~ 食事が原因となる皮膚疾患に「食物アレルギー性皮膚炎」があります。 【症状】 季節に関係なく、一年中頑固な痒みが現れるのが特徴です。犬・猫ともに若い時だけでなくどんな年齢でも発症します。 ●犬でよく見られる症状  初期には目、口周り、耳、足先、背部、鼠径部、肛門周囲の痒みや赤み、ブツブツが現れます。軽症では痒みだけが見られることもあります。痒みや炎症が続くと脱毛や皮膚の黒ずみ、苔癬化(たいせんか:皮膚が厚く硬くなる)が見られます。 ●猫でよく見られる症状  顔、耳、頸部、腹部、足などにおける痒み、左右対称の脱毛、赤み、かさぶた、ブツブツが現れます。 除去食試験:現在与えている食事やおやつを中止し、これまで与えたことのないタンパク質で作られた食事を1~2カ月間与えることによって皮膚の症状が改善するかを判断する試験。 【治療】 犬や猫の食物アレルギー性皮膚炎の治療法には、いくつかのアプローチがあります。以下は一般的な治療法です。 食事療法アレルギーの原因となる食物を含まない食事に切り替えます。新奇タンパク食(※1)や、加水分解食(※2)など、療法食が推奨されます。※1:これまでに食べたことのないタンパク質で作られた食事※2:タンパク質を加水分解によりアレルギー反応しにくいサイズにまで小さくした消化性の高い食事 薬物療法痒みや炎症を和らげるために抗ヒスタミン剤、ステロイド剤、免疫抑制剤などを使用することがあります。 皮膚のケア適切なシャンプー:皮膚の保湿やバリア機能を保つために、低刺激性のシャンプーなどを使用します。保湿:皮膚の乾燥を防ぐために、専用の保湿剤を使うことがあります。 アレルギー性皮膚炎を調べるにはどのような検査があるの?食物や環境アレルゲンに対する免疫反応の有無を調べる血液検査があります。『リンパ球反応検査』では食物アレルゲンについて、『アレルゲン特異的IgE検査』では環境および食物アレルゲンについて調べることができます。これらはあくまで診断の補助として行う検査です。検査結果を踏まえて食事を変更した時に症状の改善が見られるかどうかが鍵となります。 ~消化器編~ 食事が原因となる消化器疾患に「食事反応性腸症」があります。食物アレルギーが原因になることもありますが実際は少なく、食事不耐性や腸内細菌叢の乱れなども関与していると言われています。 【症状】 犬でよく見られる症状頻回の排便、しぶり、下痢、嘔吐など 猫でよく見られる症状下痢、嘔吐、血便、体重減少など※3週間以上の長期的な軟便、下痢などの消化器症状が続いている場合は早急に病院にご相談ください。 【治療】 犬や猫の食事反応性腸症では、食事の管理を中心に、補助療法、生活環境の改善を組み合わせたアプローチを行います。 食事療法食事反応性腸症の診断では「リンパ球反応検査」「アレルゲン特異的IgE検査」を使用することはありません。低アレルゲン食や高消化性の療法食へ変更し、症状の改善があるかを確認します。 サプリメントの使用腸内の健康をサポートするために、善玉菌や腸内環境を改善するサプリメントや消化を助けるための消化酵素サプリメントを使用することがあります。 生活環境の改善ストレスが腸内の症状を悪化させることがあるため、ストレスを減らす方法を考慮して実践します。(適度な運動や安心して過ごせる生活環境など) 《豆知識》消化器は体内にあるけれど体外!?胃や腸など食べ物を分解し、血液中に栄養を吸収する器官をまとめて消化器といいます。この消化器は、食べ物が口から入り、消化・吸収を経て体の外へ排出されるまでの一本の管と考えることができます。皮膚と同じように身体の外から取り込まれた物質と直接接するため、消化器も〈体外〉と考えられているのです。 獣医師からお伝えしたいこと 同じ〈体外〉である皮膚と消化器で、食べ物が原因の症状が認められますが、治療法は少し異なります。 動物病院で遭遇する皮膚疾患の1〜6%が食物アレルギーと診断されており、あまり多くはありません。 また、アレルギー検査は症状が出ていない健康な犬においても血液検査で陽性と出ることがあり、結果は100%正確ではありません。「アレルギー検査で牛肉が陽性だったから、牛肉アレルギー」ではなく、除去食試験と負荷試験を行って痒みが改善し、ぶり返したことを確認してはじめて食物アレルギーと診断されます。検査結果を鵜呑みにして食べられるものを狭めるのではなく、今後どのような食物を食べても大丈夫なのか、どのような食物を食べたら痒みが見られるのかを一緒に見つけていきましょう。おやつも、症状が出ない食物のタンパク質でできているものや野菜であれば与えることができます。愛犬や愛猫が症状の出る食べ物を誤って口にしてしまう事故を起こさないためにも、ご家庭内での拾い食いや盗み食いには注意していただくなど、ご家族全員の協力が不可欠です。ご不明点や気になる点があればいつでも病院にご相談ください。 どちらが良いの? 市販食と家庭調理食 アレルギー対応の食事が手に入らない場合は、ご家庭での手作り食が選択肢の一つとなります。ここでは愛犬や愛猫のために食事を手作りする際の注意点をお伝えします。 ■市販食と家庭調理食のメリット・デメリット 市販食メリット:栄養のバランスが良い、手間がかからないデメリット:すぐに手に入りづらい 家庭調理食(手作り食)メリット:飼い主様自ら調理するので原材料が明確。デメリット:栄養バランスを調整できず、よく食べても栄養失調になるケースも ご自宅で食品の栄養素や摂取カロリーを調べる場合、文部科学省の食品成分データベースで検索することができます。 ■手作り食を試したい場合の注意点 5大栄養素(ビタミン・ミネラル・脂質・タンパク質・炭水化物)はすべて不足しないようにしましょう。 にんじん、ほうれん草、納豆、しじみなど※サプリメントで調整可能 小魚、海苔、干しエビなど※サプリメントで調整可能 肉、魚、植物油、チーズなど※動物性の食材から摂るほか、アマニ油などを少量トッピングしても問題ありませんが、摂りすぎに注意が必要。 肉、魚、卵、えんどうまめ、サツマイモなど。※動物性と植物性の2種類を組み合わせを推奨(肉と米やイモなど) 米、うどん、そば、バナナなど 水分もしっかり摂取しましょう。また、犬や猫は咀嚼することがとても苦手です。フードプロセッサーを使用するか、みじん切りにし、煮崩れするまで加熱するようにしましょう。 まとめ 現在、さまざまな食物アレルギー性皮膚炎・食物反応性腸症に対する食事が開発されているため、愛犬・愛猫の食事の楽しみを奪うことなく治療に取り組むことが可能です。食事選びに困ってしまう、手作り食を加えたいなど食事に関する相談や希望がある場合は、栄養管理について専門知識を持つ『栄養マイスター』の愛玩動物看護師が当院に在籍しておりますので、お気軽にご相談ください。 痒みや赤み、下痢や嘔吐など、ご自宅で比較的見つけやすい症状に関する疾患を一部ではありますが、今回ご紹介させて頂きました。飼い主様の気付きが早期診断・治療に繋がることもあるので、少しでも気になる事やいつもと違う様子がある場合は病院までご相談ください。

  • シニア動物の心の変化

    ※こちらの記事は前記事『犬・猫のしぐさと気持ちの関係 より良いコミュニケーションのためのヒント』の続編となります。より理解を深めていただくために、ぜひ併せてお読みください。 犬も猫も7歳を過ぎた頃からシニア期に入り、老いの兆候が見られるようになります。加齢は身体の機能や感覚ばかりでなく、心にも影響を与えます。今回は、シニア期に起こる動物の変化について心の側面を見てみましょう。 加齢によって現れる心の変化 強まる不安傾向 シニア期になると不安傾向が強まり、いろいろな刺激や状況に対して恐怖や不安を感じやすくなります。これには二つの理由が考えられます。一つは、心を司る脳の情報処理機能が低下するためです。これにより、若い頃と比較して、同じ刺激を受けた時でも不快情動(恐怖や怒り)が生まれやすくなります。もう一つは、身体的な問題や感覚の低下に起因する二次的な変化です。病気による痛みや不快感があったり、視覚や聴覚機能が衰えたりすると、心理的にも余裕がなくなります。このような変化は、バックグラウンドストレスとして蓄積され、刺激に対する反応を過敏にします。 こんな行動があったら不安感が強まっているかも? 不安な時、動物は安心できる場所を探します。一般的には、家族の近くにいることで安心感を得られるため、後を付いて回ったり、撫でられることや抱っこなどの交流を要求したりすることが増えます。猫の場合は、自分のお気に入りの場所、暗いところや狭い場所にいる時間が増えることもあります。また、攻撃や威嚇といった行動は、恐怖に関連していることが多いものです。このような行動が頻繁になったり激しくなったというような場合も不安感が強まっている場合があります。 シニア期=心の風船を持ち替える時期 それぞれの動物が持つストレス耐性(心のキャパシティ)を風船に例えてみましょう!シニア期に入ると、徐々に小さな風船に持ち替えていく動物が多いようです。大きな風船を持っている動物がいろいろな刺激や状況に対して動じにくく寛容な態度であるのに対し、小さな風船を持っている動物はストレス耐性が低いため、不快情動を示しやすいという特徴があります。 うちのコって認知症? シニア期に多いのが「うちのコ、認知症でしょうか?」という質問です。犬や猫の認知症(高齢性認知機能不全症候群)は認知機能の低下を伴い、以下のような症状を示します。認知症は、進行性の疾患であり根本的な治療はできないので、ご家族様が不安になられるのはごもっともだと思います。しかし、以下のような症状があっても、実際には認知症ではないことも多くあります。また、認知機能低下が確認されても、多くの場合、症状や悪化要因の一部を緩和させたり、ご家族様の負担を軽減したりすることは可能です。個々の症状や家庭環境を把握し、適切な診断と対策をすることが重要です。認知症かな?と思ったら、ぜひ早めに獣医師にご相談ください。 【認知症の症状】 見当識障害■ 物を避けずにぶつかる■ 部屋の角や家具などに囲まれた狭いところから後退や方向転換ができず動きが取れなくなる■ 慣れた場所がわからなくなる 社会的交流の変化■ 家族や同居動物との関わり方が変わる■ 家族の帰宅時に喜ばなくなる■ 挨拶をしなくなる 睡眠サイクルの変化■ 昼夜逆転■ 日中寝てばかりで夜の活動が増える(夜鳴き) 学習した行動(排泄・トレーニング)の変化■ トイレ以外の場所で排泄する■ 指示語などのルールに従うことができなくなる 活動性の変化■ 刺激に対する反応が減る■ 探索行動が減る■ 無目的にウロウロしたり円を描くように歩いたりする■ 攻撃行動が増える 不安■ 家族が近くにいないと吠える・鳴く■ 以前は大丈夫だった人・物・状況を怖がる 犬の認知症は、正常な脳の老化が過度に進んだ状態と考えられています。老化を進行させないような健康管理、食生活、環境づくり、家族との交流など、日頃のケアがとても重要です。 よくあるシニア動物の行動相談 シニア期になって問題行動が生じることは多いものです。相談の多い二つの行動についてご紹介します。認知症の症状として見られる行動でも、それ以外のさまざまな理由で示されることがあります。 1. 夜鳴き シニア期に限らず、夜間に吠えたり鳴いたりする場合は、家族の安眠を妨害するばかりか、ご近所トラブルの原因になりやすく、深刻な問題となります。夜鳴きは以下のような理由でも起こります。 ■ どこかが痛い■ どこかが気持ち悪い(不快)■ 怖い、不安■ 家族を呼ぶため■ 物音や人の気配に対して(恐怖、縄張りを守る)■ 分離不安■ 何かが欲しい、要求時(喉が乾いた、お腹が空いた、動きたい、排泄したい、暇、など)■ 高齢性認知機能不全症候群 ▷シニア期の特徴 シニア期の夜鳴きは、認知症の症状として無目的に起こると思われがちですが、多くは原因があります。高齢になればなるほど身体的な不調が生じやすく、体力の低下から動物自身が望む行動を取れないことが多くあります。また、前述のように不安傾向が強くなることから、恐怖や警戒も増します。何らかの要求を伝えるため、助けを求めて吠える・鳴くことも少なくありません。 ▷対策 日中の刺激や活動を増やし、犬や猫の社会的欲求(撫でる、一緒に遊ぶ、トレーニングをする、散歩をする、においチェックの機会を与える)、生理的欲求(排泄を促す、飲水飲食の補助)を充分満たしてあげましょう。快適で安心できる安全な寝場所を用意することも大切です。それでも解決しない場合は、原因を探り、それを改善する作業が必要です。夜間に生じるすべての要求に応えようとすることで、ご家族様が疲弊してしまうことも少なくありません。お困りの場合は獣医師にご相談ください 2.  トイレの失敗 排泄の失敗は、愛犬や愛猫のことが心配になるだけでなく、片付けにも手間を取られ、ご家族様にとって負担が大きい問題の一つです。トイレの失敗は以下のような理由で起こります。 排泄の失敗は、愛犬や愛猫のことが心配になるだけでなく、片付けにも手間を取られ、ご家族様にとって負担が大きい問題の一つです。トイレの失敗は以下のような理由で起こります。 ●排尿回数の増加、排泄時の不快感●トイレに行くのが大変(遠い、アクセスしにくいなど)●トイレに入りにくい、使いにくい(狭い、安定性が悪いなど)●トイレを安心して利用できない(音や他の動物が怖いなど)●トイレが汚い(回数、量が増え掃除が間に合わない)●トイレのトレーニングが充分できていない(犬の場合)●トイレ以外の場所が好き●マーキング●高齢性認知機能不全症候群 ▷シニア期の特徴 シニア期の排泄の失敗の多くには身体的な変化が関連しています。泌尿器系の病気などの影響により排尿回数が増え、さらに体力が衰えることで以前は問題なく使用できていたトイレに間に合わなくなったり、不便が生じたりして失敗してしまうのです。また、不安傾向が関連していることも少なくありません。一旦トイレ以外の場所で排泄するようになってしまったら、原因を解決しても、それが続いてしまう場合もあります。 ▷対策 まずは定期的な身体検査をおすすめします。身体的な問題や変化を早期に確認し、心身の状態に合わせてトイレの質や場所を変更していくことで、多くの場合、予防や改善が可能です。一方、認知症による場合は、再びトイレの学習をさせることは困難であるため、トイレシーツやマナーベルト、オムツなどを上手に利用して管理をしていく必要があります。 愛犬・愛猫の変化に寄り添いましょう 「これまで穏やかに生活してきたのに…」。長年に渡って信頼関係を築き、幸せに生活してきたご家族様にとって、シニア期の愛犬・愛猫の変化は心配であるとともに、残念な出来事であるかもしれません。愛犬・愛猫は皆様にとって昔と変わらず可愛く、愛情一杯の家族であるため気付きにくいのですが、私たちの何倍も早く年をとり、身体や心には変化が生じています。心身の状態を把握し、それに合った生活や楽しみを見つけていただければと願っています。シニア期は、不安や負担が増える時期でもあります。当院では、ご家族様に寄り添い、各ご家庭にあった最適な支援を行って参ります。シニア動物のためのデイケア(市川総合病院)なども承っておりますので、お気軽にご相談ください。 当院では犬のしつけ教室を開催しています。シニア期に入った愛犬とのコミュニケーションにお悩みのご家族様、シニア期の愛犬との絆をより深めたいご家族様には特におすすめです。 また、市川総合病院では行動診療科を開設しており、シニア期の愛犬・愛猫の行動相談を承ります。受診をご希望の際は、かかりつけ病院の獣医師にお問い合わせください。手順を踏んで、行動診療科のご案内いたします。 ▶しつけ教室のご案内はこちら▶行動診療科のご案内はこちら

  • 犬・猫のしぐさと気持ちの関係 より良いコミュニケーションのためのヒント

    言葉が通じない動物たちは、しぐさや行動で私たちに気持ちを伝えています。今回は、当院行動診療科の獣医師監修のもと、動物たちの気持ちに寄り添い、より良いコミュニケーションを築くためのヒントをお伝えします。 動物の気持ちは行動に表れる!? 脳で生まれる気持ちと行動 人を含めた動物は、何らかの刺激や出来事に遭遇した時、それが自分にとって“危険で有害なもの”なのか“欲求を満たしてくれる有用なもの”なのかを短時間で評価しています。その際、大脳辺縁系では、前者の場合には不快情動(恐怖や怒り)が、後者の場合には快情動(喜び)が発生し、それに応じた行動や生理学的な変化(震えや表情)が引き起こされます。これに対し、より複雑な認知を司る大脳新皮質は、その場の状況を分析し判断することで、咄嗟に生じた情動をコントロールする役割を担っています。つまり、過剰な行動や反応をとることなく、論理的で理性的な態度に導くのが大脳新皮質の役割なのです。 脳の構造 脳の基本的な構造は、人も犬・猫も同じです。 前頭前野:大脳新皮質の中でも、特に情動の制御を司る。 大脳新皮質:高度な認知・分析・判断などを司る。進化的に新しい部分。 大脳辺縁系ー視床:情動や本能的な行動を司る。 脳幹:生命維持活動を司る。進化的に古い部分。 動物は人よりも素直⁉ 人と犬・猫の脳を比較すると、大脳辺縁系の発達には大差がない一方、前頭前野に関しては人が飛び抜けて発達しています。つまり犬・猫は人と比べ、理性的な行動をとるためのコントロールが弱く、情動どおりの過剰な反応をとりがちであることがわかります。しかし、別の言い方をすれば、人と違い、犬・猫は状況や相手に応じて忖度したり嘘をついたりせず、素直に心模様を表現する存在だとも言えるのです。 ■前頭前野が大脳に占める割合 猫:3.5%程度犬:7%人:30% 例えば、怒られた時、人間は反省したり、相手に忖度した行動をとることができます。しかし、動物は言葉の意味や状況を深く理解することはできません。一見、反省しているように見えても、人の大声や興奮した様子に、恐怖や怯えを感じているだけかもしれません。 動物にも個性が! 心のキャパシティ(容量)には個体差がある さまざまな刺激に対して恐れを抱きやすい動物もいれば、動じにくく寛容な態度を示す動物もいます。このような反応の違いは、その動物が持つ【ストレス耐性=心のキャパシティ】の差にあります。 刺激や状況に対して快情動が生じやすい動物↓ストレス耐性が高い↓心のキャパシティが大きい 刺激や状況に対して不快情動が生じやすい動物↓ストレス耐性が低い↓心のキャパシティが小さい 動物それぞれのストレス耐性は以下の要因が影響しています。 遺伝 親動物から引き継いだ個性は無視できない大きな要因です。親と子の風船の大きさは、比例しやすいと言えます。 胎児期、子犬・子猫期の経験 胎児期に親動物がストレスを多く受けたり、子犬・子猫期に親動物から適切なケアを受けられないことがあったりすると、脳の発達に影響が及び、ストレスへの反応が下手になってしまう、つまり風船が小さくなってしまうことがわかっています。 風船は、子犬・子猫の時期に楽しくさまざまな経験を積ませることで、大きくすることができます。これを社会化と言います。当院では、社会化のためのトレーニング・プログラムをご用意しています。子犬・子猫を育てている方、または家族に迎える予定がある方は、ぜひこの貴重な時期を逃さないよう、プログラムにご参加ください!(※ご興味のある方は病院スタッフまでお問い合わせください) ▶社会化とは? 人間社会でともに楽しく暮らすために、人との関係、または犬や猫などの動物の間で必要な“社会性”や“規範”を身につけることを言います。“社会性”や“規範”は生まれつき備わっているわけではなく、学習により後天的に得られるものであるため、飼い主が社会化の機会を作ってあげることがとても重要です。 犬では生後3~16週齢頃、猫では生後3~12週頃が、さまざまなことに馴れるのに適した柔軟な時期で「社会化期」といわれています。子犬・子猫を家族に迎えたら、早速、社会化を促進させてあげましょう。  ちなみに、社会化期を過ぎた成犬も時間をかけてじっくりと楽しい経験を積み重ねることで、社会性を身につけることは可能です。ただし、子犬や子猫の場合より数倍の時間がかかるので、ぜひこの大事な「社会化期」を逃さないようにしてください! 我が家の愛犬・愛猫の風船は? 快適に暮らしてもらうためのヒント Point1:風船の大きさを知り、見合った経験をさせましょう 以下に対する愛犬・愛猫の反応を観察してみましょう。あらゆる刺激に対して、“高頻度に激しく”怖がる場合は風船が小さいと言えます。 ・ 社会的な状況(見知らぬ人や動物に出会った時) ・ 見知らぬものや音(雷や大きな音、初めて見るものや動き) ・ いつもと違う状況(来院、旅行、留守番、新奇環境) 愛犬・愛猫が持っているのが小さい風船だった場合、ご家族が良かれと思ってさせる経験(他動物との交流など)も、大きな負担・恐怖になっている可能性があります。だからと言ってすぐに大きな風船に取り替えることはできないので、まずは風船の大きさを個性として受け入れた上で、愛犬・愛猫のストレスにならないペースを見極め、できることを褒めて増やしながらゆっくり自信を養ってあげましょう。 風船の概ねの大きさは子犬・子猫期に決まります。その後は急な変化は望めませんが、それぞれに合わせたペースで経験を重ね、風船が膨らんだ状態を保つことで、生涯を通じて少しずつ大きくすることは可能です。 Point2:風船をいつも膨らませておきましょう!  大きな風船を持っていても、しぼんでいては台なしです。【風船が膨らんだ状態=幸せな状態】を保つためには、適切で快適な環境で暮らせることが必要です。「犬の環境エンリッチメント」「猫の5つの柱」というガイドラインを参考に、愛犬・愛猫の生活環境を今一度見直してみましょう。 ▶犬の環境エンリッチメント 空間エンリッチメント動物種本来の正常な行動がとれるように、充分なスペースと安心できるプライベート空間を与える。 採食エンリッチメント本来の摂食行動に近づくよう、知育玩具などを用い捕食欲求を満たす。 感覚エンリッチメント散歩や遊びなどを通して、視覚・触覚・嗅覚などに刺激を与える。 社会的エンリッチメント人や他の動物との関わりの機会を設ける。 認知エンリッチメント知育玩具やトレーニングに挑戦し、考える機会を与える。 ▶猫の5つの柱 第一の柱安全で安心できる場所を用意し、上下運動ができるように家具の配置を工夫する。 第二の柱トイレ・フード・水・爪研ぎ・オモチャ・寝床などは複数用意する。トイレは適切な形や大きさのものを設置し、常に清潔にしておく。 第三の柱知育玩具や猫じゃらしなどを用いて、捕食欲求を満足させる機会を与える。 第四の柱猫の好むスタイルで交流し、人と猫の適切な社会的関係を構築する。 第五の柱猫の嗅覚の重要性を尊重した環境を用意する。 「犬の環境エンリッチメント」と「猫の5つの柱」のより詳細な情報は、こちらでご覧いただけます。 あなたは分かる? 愛犬・愛猫が伝えたい本当の気持ち 犬や猫の情動(気持ち)は行動に表れます。皆さんは、動物のボディランゲージを正しく理解できているでしょうか?次のクイズに挑戦して、動物の気持ちが表れるポイントをチェックしてみましょう! Q1. 不安を感じているのは、どちらの犬でしょうか? 答え:1番 ‟ヘソ天“は無防備な体勢であり、一般的にご家族に対しては、心を許し安心している時に行います。一方で、自分が怖いと思う相手に対して、敵意がないことを示すために行う場合もあります。1番は尾が巻かれ後肢の間に入っており、身体が丸まっています。また、耳を後ろに引いており、表情も固いです。これらの仕草は、恐怖・緊張・不安を表しており、「ちょっと怖いな。僕は敵じゃないから、仲良くしようよ」というメッセージが伝わってきます。 Q2. 今にも攻撃してきそうな2頭ですが、本当は怖がっているのはどちらでしょうか? 答え:2番  2頭の“耳の位置”と“口角の引き具合”に注目してみましょう。犬は恐怖を感じると、耳が後ろに引かれ、口角も後ろに引き気味になります。2番の犬は、姿勢を低くしていることからも弱気な様子が見てとれ、「お前、こっちに来るなって言ってるじゃねーか!」と言っているようですね。一方、1番は耳がピンと立っており、口は口角を前に押し出すように開いていることから、怒って積極的に威嚇している様子がうかがえます。 犬が恐怖・不安を感じている時には、表情の他に以下のようなボディランゲージを示すことがあります。 口の周りを舐める  あくびをする 目をそらす     反応が過敏になる 動きがゆっくりになる 落ち着かなくなる  など Q3. この中で怖がっているのは、どの猫でしょうか? 答え:1番と3番 猫の緊張・恐怖・攻撃性は、顔・しっぽ・姿勢などに表れます。1番は身体を大きく見せようと、尾と毛を立たせ威嚇をしているものの、耳は後ろに引いており、開いた瞳孔からは恐怖が感じられます。「こっ、怖!こっちに来るな!追い込まれたら、やるっきゃない…」と恐怖と攻撃の間で葛藤している様子がうかがえます。3番は恐怖心から自分をなるべく小さく見せようと尾を身体に巻き付けています。耳も頭にくっつけるように平たく寝かしていますね。「緊張するな~。怖いから近づかないでよ」という気持ちの表れですね。一方、2番は身体や顔に緊張感がなく穏やかな表情です。尾も上がっており、「こんにちは~♪何かいいことある?」とフレンドリーに挨拶をしてくれているようです。 コロナ禍で増えた!? 動物たちの問題行動  新型コロナウイルスの感染拡大により、人々のライフスタイルが大きく様変わりしたなか、家族の行動パターンの変化は、愛犬・愛猫たちにも大きな影響を及ぼしました。コロナ禍で増えた動物たちの問題行動についてご紹介します。 ■分離不安 分離不安とは愛着を感じている相手と離れた際に起こるストレス行動で、以下のような不安行動を示します。 家族が外出の準備を始めた時や留守番時に… 落ち着かなくなる 過度に鳴く、吠える トイレ以外の場所で排泄する 破壊行動をする 食欲がなくなる 行ったり来たりする よだれをたらす 特に、性格が憶病なペットやシニアの動物(風船が小さいまたはしぼんでいる状態の動物)が分離不安を起こしやすいと言われています(シニア期になると小さな風船に持ち替える動物が多いです)。一般的には、犬に起こりますが、猫も例外ではありません。 ▷コロナ禍による影響 緊急事態宣言下では外出自粛やテレワークをするようになったため、家での楽しみや癒しを求めて長時間・近い距離で愛犬・愛猫と過ごす家族が増えました。コロナ流行前より濃密なコミュニケーションを楽しんだ犬や猫たちは、安心感や快適さを実感し、以前より強い愛着を家族に感じたことでしょう。しかし、宣言解除に伴い再び家族の外出機会が増えると、ライフスタイルの急激な変化に混乱した動物たちは、より強い不安を感じ上のような行動をとるようになったと考えられます。 ◎対策 愛犬・愛猫と一緒に過ごす時間には、できるだけベタベタせずに、物理的な距離をとるように心がけましょう。家事や仕事はあえて違う部屋で行い、離れる時間を定期的に持つことをおすすめします。但し、一緒に遊ぶ時間や散歩の時間は減らさないように気をつけてください。愛犬・愛猫が既に不安行動を呈している、仕事や学校の都合で外出機会が急増しそう、といった場合は行動診療科の獣医師に相談されることをおすすめします。 ■家族への攻撃行動 ご家族に対するペットの攻撃行動は、家族が行った何らかの対応に対し、不快情動が生じた場合に示されます。一般的には「怖い」「嫌なことをされたくない」「ものや食べ物を取られたくない」といった防御的な気持ちが引き金となりますが、ストレス耐性が低い状態、つまり心の風船が小さく、その風船がしぼんだ状態になっていると、簡単に高頻度に引き金が引かれてしまいます。 ▷コロナ禍による影響 愛犬・愛猫との交流時間の増加により、家族がペットの不快情動を引き起こすような対応をとってしまう機会もまた増加しています。普段、犬は家族のスケジュールに合わせて生活し、猫は家族の居場所と自身が安心できる大事な場所がバッティングしないよう、時間帯によって自身が通ったり使ったりする場所を変えるなどの工夫をしています。しかし、コロナ禍では、在宅ワークや時差出勤などにより家族の在宅時間や生活パターンが変わってしまったため、いつものリズムで生活できなくなった動物たちはストレスを感じたと思われます。ストレスは風船をしぼませてしまう原因となります。風船がしぼんだ動物は、それまでは平気だった家族の対応にも不快情動を生じやすくなるので、攻撃行動を起こしやすくなったのだと考えられます。 ◎対策 犬の場合:家族の生活リズムが変わった場合も、散歩・食事・遊び時間などの愛犬が楽しみにしているイベントは、できるだけ定期的に与えるように心がけてください。 猫の場合:今一度、猫の生活環境を見直してみましょう。寝床・食事の場所・水飲み場・トイレなどは、複数カ所に設置してください。人が集まる場所や通路になるところは猫が好まない場合があるので、愛猫が安らげる場所に居場所を作ってあげましょう。 深刻な攻撃行動が見られる場合は、迷わず行動診療科を受診してください! 激しいグルーミング 犬や猫はグルーミングに比較的長い時間を費やします。しかし、心理的にストレスとなる出来事に遭遇したりストレス耐性が弱まったりすると、身体を舐める行動が過度になり、脱毛や皮膚炎を引き起こす場合があります。グルーミング以外にも、心理的ストレスにより発生している可能性がある行動には次のようなものがあります。 尾を追いかけて回転する(犬・猫) 光を追う(犬・猫) フライバイト※(犬) 布を吸う、食べる(猫) ※ハエがいるかのように口をパクパクして捕まえようとする行動 ▷コロナ禍による影響 攻撃行動で説明したように、コロナ禍では動物たちが大きなストレスを抱え、風船がしぼみがちです。一方で、家族との交流が増えたことで心が満たされ、症状が緩和されたケースもあります。しかし、この場合も、家族が元の忙しい生活に戻る際には注意が必要です。 ◎対策 攻撃行動の対策を参考にしてください。皮膚炎や脱毛がある場合には、身体的な疾患との鑑別をするため、まずは獣医師による診療を受ける必要があります。身体的な疾患が無いと確認した後、行動診療科の診察をご案内します。   ※上記の問題行動はアフターコロナにありがちな問題行動をまとめたものです。特定のケースについて引用しているものではありません。 まとめ 私たちも動物たちも、未曾有の事態への対応に疲れ、心の風船がしぼんでしまいがちな時間が長く続きました。でも、そんな時だからこそ、お互いの存在が癒しとなり、絆が深まったとも言えます。この機会に、ぜひ愛犬・愛猫との関係を見直し、さらに良い関係を築いていただきたいと願っています。当院の行動診療科では、各ご家庭に最適な支援を行っておりますので、問題行動や日常生活でのどんな不安もお気軽にご相談ください。動物たちがストレスなく快適に過ごせるように注意深く観察しながら、その時々に合ったフォローをしてあげたいですね! 当院では犬のしつけ教室を開催しています。日頃から愛犬とのコミュニケーションにお悩みのご家族様、愛犬との絆をより深めたいご家族様には特におすすめです。 また、愛犬や愛猫の問題行動にお困りのご家族様向けに市川総合病院にて行動診療科を開設しております。受診をご希望の際は、かかりつけ病院の獣医師にお問い合わせください。手順を踏んで、行動診療科のご案内いたします。 ▶しつけ教室のご案内はこちら▶行動診療科のご案内はこちら

  • 知っておきたい 目の病気とケア

    おねだりでウルウルと見つめてきたり、興味の対象をジーッと追いかけたりするペットの大きな瞳は、とてもキュートですよね。そんな愛犬・愛猫の大切な瞳を守るため、目の病気やご自宅でできる正しいケアの方法をご紹介します。   目のしくみ 目の構造はカメラに例えられます。光はカメラのレンズ部分である角膜や水晶体を通り、フィルムである網膜へと届けられます。網膜に入ってきた光は電気信号に変換され、コードである視神経を通って脳へと伝えられます。 角膜と水晶体の間の前眼房という部分には眼房水という水が入っていて、この水の圧力により目の張りや大きさが保たれます。 犬・猫によく見られる眼科疾患 1. 白内障 水晶体の一部、もしくは全部が白く濁ってくる病気です。進行すると視力が低下し、失明に至ります。また合併症として、炎症や緑内障が起こる場合もあります。 【原因】●外傷●老化●中毒●遺伝●糖尿病●網膜疾患の合併症柴犬、トイ・プードル、アメリカン・コッカースパニエルなどは遺伝的にかかりやすく、若い犬にも見られます。 【症状】●黒目の白濁●眩しそうにする●目が見えない 【治療方法】病気の進行度合いより4段階に分類され、各段階で治療法が異なります。※本誌症例表入る白内障の手術は、濁った水晶体を超音波で砕いて吸引し、人工の眼内レンズを挿入する方法が一般的です。手術を希望される場合は、専門病院をご紹介致します。 2. 緑内障 通常、眼房水は生産と排出を繰り返していますが、緑内障は眼房水の排出が悪いため眼圧が上昇し発生します。進行すると網膜や視神経が障害されて失明に至ります。 【原因】●遺伝による眼房水の流出路異常●ぶどう膜炎・水晶体の脱臼・外傷・腫瘍などの発生による眼房水の排出不良柴犬、アメリカン・コッカースパニエルなどに多く見られます。 【症状】●白目の充血●眼球の肥大●目が見えない●痛みによる元気消失 【治療方法】「内科的治療法」および「外科的治療法」がありますが、動物の状態や症状の程度、飼い主様の意向などにより治療方法が異なります。●内科的治療法…眼圧を下げるために内用薬や点眼薬を投与します。●外科的治療法…レーザー手術(※1)や緑内障バルブ手術(※2)などを用いて眼圧を下げます。※1:眼房水を抑えることを目的に行う手術※2:眼房水を排出することを目的に行う手術 ▶義眼手術を実施した例視覚を失っており回復が見込めない場合は、シリコンボールを挿入する義眼手術を行います。これにより、眼球拡張による角膜潰瘍になることを予防することができます。 3. 角膜潰瘍 角膜潰瘍は目に傷がついた状態のことです。炎症や細菌感染が合わさって起こると重症化します。3層(上皮・実質・内皮)から成る角膜のどの層にまで傷が生じているか、その傷の深さにより重症度と治療法が異なります。短頭種は目が出ているので、特に注意が必要です。 【原因】●外傷●異物による刺激●まぶたやまつ毛の異常●涙液の減少●感染症猫風邪にかかると目ヤニなどの症状を伴う結膜炎を発症することが多々あり、角膜潰瘍の原因にもなります。 【症状】●目ヤニ●目のショボつき●白目の充血●黒目の白濁 【治療方法】●傷が浅い場合には点眼治療が主体となります。●浅い傷でもなかなか治らない場合や傷が深い場合には外科手術が適用されます。●傷がさらに深くなり角膜に穴が開いた状態(角膜穿孔)になると眼球摘出をしなければいけないケースもあります。●角膜潰瘍の際には目をこすって悪化することがあるため、エリザベスカラーの着用をおすすめします。 4.結膜炎結膜(まぶたの内側と眼球の表面を覆う薄い粘膜)が炎症を起こす病気です。結膜は目を保護し、潤滑させる役割を持っていますが、炎症が生じると赤みや腫れ、目ヤニ、涙の増加などの症状が現れます。 【原因】●細菌、ウイルス、真菌等の感染●アレルギーや刺激物●外傷●乾燥(ドライアイ)●糖尿病、高血圧、自己免疫疾患など猫では特に、猫カリシウイルスや猫ヘルペスウイルスが原因となることが多いです。 【症状】●目の赤み、痒み、腫れ●目ヤニ、涙目●光(明るい場所)を嫌がる 【治療方法】原因により治療法が異なります。●感染性、アレルギー性の場合:点眼薬や軟膏、内服薬などを使用します。●刺激物や異物による場合:生理食塩水で目を洗浄したり、異物を除去した後に点眼薬を使用します。必要に応じて、目を保護するためのエリザベスカラーを使います。●全身性疾患による場合:原因となる基礎疾患の治療を行います。 5.網膜剥離(もうまくはくり) 眼球後面の内側に接している網膜という薄い膜が剥がれる疾患です。網膜は光を感じて視覚信号を脳に伝える重要な役割を担っているため、剥離が起こると視力低下や失明の原因となります。早急な診断と治療が重要となります。 【原因】●頭部への打撃や外傷●糖尿病、腎疾患、心疾患、甲状腺疾患などによる高血圧●細菌、ウイルスの感染●眼内や眼窩の腫瘍パグ、シー・ズー、トイ・プードルなど一部の犬種で、遺伝的に網膜剥離を起こしやすい場合があります。 【症状】●視力の急激な低下、失明●瞳孔の異常(光に対する反応が鈍くなる)●目の変色●眼球突出●目の痛みや不快感 【治療方法】●高血圧や炎症、感染症などの原因に応じた薬を使用して症状を緩和します。●硝子体手術(※1)やレーザー手術(※2)などを行う場合もあります。※1:網膜を元の位置に戻すために行われる手術※2:レーザーを用いて網膜を固定する方法●全身性疾患による場合:原因となる基礎疾患の治療を行います。 6.乾性角結膜炎(ドライアイ) 涙の分泌が不足するか、涙の質が悪くなって目が乾燥する疾患を指します。一般的に「ドライアイ」と呼ばれる状態です。涙液は目の健康を維持するために重要であり、目を潤すだけでなく、栄養を供給し、感染を防ぐ役割を果たします。ドライアイになるとこれらの機能が低下するため、さまざまな目の問題を引き起こす可能性があります。 【原因】●免疫介在性疾患(猫では稀)●先天性低形成●薬物の副作用●手術や外傷による涙腺の損傷●ウイルス感染による涙腺の損傷 犬:ヘルペスウイルスやジステンパーウイルスなど 猫:ヘルペスウイルスなど●老化●乾燥した環境●神経症状(瞬きする神経が障害された場合) 【症状】●涙の不足による目の乾燥、充血●目ヤニ●まぶたの炎症や腫れ●目の痒み、痛み、不快感●角膜の変色や濁り●視力の低下●第三眼瞼(瞬膜)の突出 【治療方法】●目の潤いを保つための人工涙液や、涙腺の炎症を軽減し涙の産生を増やす効果のある点眼薬を使用します。●ドライアイが原因で二次的な感染が起こった場合、抗生物質の点眼薬や内服薬を処方することがあります。●深刻な場合、涙腺の移植手術が検討されることがあります。 ドライアイを予防するには?(後半「ご自宅でできるケア」内の記事にリンク) 7.涙管閉塞 涙を目から鼻へ排出する涙管(涙道)が詰まる状態を指します。涙管閉塞があると、涙が目から適切に排出されず、目の周りに溢れ出ることになります。 【原因】●先天的異常(涙管の構造的な異常や形成不全)●細菌やウイルスの感染●外傷による涙管の損傷●涙管周囲の腫瘍による涙管の圧迫 【症状】●涙目(流涙症)●目ヤニ●目の周りの皮膚炎 【治療方法】●感染性の場合は、抗生物質の点眼薬や内服薬を処方します。●軽度の場合は、涙管に生理食塩水を注入して詰まりを解消します。●重度の場合、涙管の開放や新しい涙管の作成を目的とした手術を行うことがあります。 8.ブドウ膜炎 眼球の前方のブドウ膜(虹彩、毛様体、脈絡膜)に炎症が起こる疾患です。目の痛みや視力の低下を引き起こし、適切な治療が行われないと視力を失うこともあるので、早期発見と早期治療が重要となります。 【原因】●細菌、ウイルス、真菌、寄生虫などの感染猫の場合、猫免疫不全ウイルス(FIV)や猫白血病ウイルス(FeLV)、トキソプラズマなど●自己免疫疾患:●外傷●眼内や眼周囲の腫瘍●糖尿病や高血圧などの全身性疾患 【症状】●白目部分の赤み:●目の痛み●涙目●視力の低下●明るい場所や光を嫌がる●瞳孔の縮小 【治療方法】●感染が原因の場合、抗生物質の点眼薬や内服薬を使用します。●炎症を抑えるために抗炎症薬(点眼薬、注射、内服薬)を使用します。●自己免疫疾患が原因の場合、免疫抑制剤を使用します。●腫瘍や他の構造的な問題が原因の場合、手術が必要になることがあります。 9.眼瞼内反症 まぶたが内側に巻き込まれてしまい、まつ毛やまぶたの皮膚が眼球に直接触れる状態で、「逆さまつ毛」と呼ばれることもあります。眼球に物理的な刺激を与え、痛みや炎症、さらには感染症や視力障害を引き起こすことがあります。 【原因】●先天性(遺伝的な要因)特に犬ではシー・ズー、パグ、ペキニーズ、ブルドッグ、ラブラドール・レトリーバーなどでよく見られます。●まぶたや顔の外傷●慢性的な眼瞼炎や結膜炎によるまぶたの構造の変化●加齢による皮膚や筋肉の弛緩 【症状】●目の赤み、痛み、痒み●涙目●目ヤニ●角膜潰瘍●視力の低下 【治療方法】●軽度の場合、抗炎症薬や人工涙液の点眼薬を使用して症状を緩和します。●一時的な対策として、逆さまつ毛を抜くことがあります。ただし、これは再発の可能性があります。●逆さまつ毛の毛根を電気で焼灼して再発を予防します。●重度の場合、まぶたの構造を修正してまつ毛が正常な方向に生えるようにする手術が必要となります。 10.瞬膜腺脱出(チェリーアイ) 第三眼瞼腺(瞬膜腺)が突出して見える状態を指します。第三眼瞼(瞬膜)が赤く腫れて眼球の一部に突き出し、まるでサクランボのように見えるため、「チェリーアイ」と呼ばれます。特に若い犬に多く見られ、猫では稀な疾患です。 【原因】●遺伝的要因:特に、ブルドッグ、ビーグル、コッカースパニエル、シー・ズー、ボストンテリアなどの犬種に好発するとされています。●瞬膜腺を眼球に固定する結合組織の弱さ 【症状】●目の内側(鼻側)に赤く腫れた塊がある●涙目●目ヤニ●目の違和感や痛み:●結膜炎 【治療法】主に外科的治療となります。●突出した瞬膜腺を元の位置に戻し、固定する手術を行います。これにより、再発を防ぐことができます。●手術前および手術後に、炎症や感染を抑えるための点眼薬を使用します。 こんな症状は見られませんか?愛犬・愛猫の状態を今すぐチェック!少しでもおかしいなと思われたら、お早めにご来院ください。 目が見えていない場合 散歩中に物にぶつかる 散歩で歩きたがらない 飼い主の足元にずっとついて歩く ボールを投げても遊ばない 階段につまずく、踏み外す 寝ていることが多くなった 噛みつくことが多くなった 目が痛い場合 目をショボつく 目を閉じる 涙の量が増える 目をこする 眼科ではどんな検査をするのでしょう? 当院で行っている眼科検査についてご紹介します。 シルマー涙液検査まぶたの縁に試験紙を挟み、涙の量を計ることにより、ドライアイを調べます。 眼圧検査眼房水の圧力を測定します。緑内障の発見に欠かせない検査です。※江東総合病院・市川総合病院では、点眼麻酔を必要としないタイプの眼圧計を導入しています。 スリットランプ検査眼に細いスリット光を当て、目の表面や内部の様子を調べます。 フルオレセイン染色検査角膜の表面に染色液を垂らすことで角膜の傷がないかを調べます。また同時に、涙が目から鼻に抜けるかもチェックします。 眼底検査眼底鏡や眼底カメラを用いて、目の奥の血管・網膜・視神経の状態を調べます。 超音波検査超音波を用いて、眼球内部を観察することで、眼球の形態的異常を確認します。 愛犬・愛猫の目の健康を守るためにご自宅でできるケア ▶顔周りに触られることに慣らす練習をしましょう! 眼科の検査では顔周りに触れるため、噛みつきなどの攻撃行動が激しいペットには検査を行えない場合があります。いざという時に備えて、日頃から顔周りに触られることに慣らす練習をしておくことが大切です。Step1:目・鼻・口の周りを触った後、おやつをあげて褒めます。Step2:Step1がスムーズにできるようになったら、手でまぶたを触って瞬きをさせたり、まぶたをめくったりして白目の状態を確認してみます。この際も、少し触ってはおやつをあげることを繰り返し、徐々に慣らしていきましょう。 ▶温め&まばたきマッサージのやり方 電子レンジで加温可能な市販のジェルや小豆の入ったアイパックを38度くらいに温め、約5分間まぶたの上に乗せます。  温めた後、まばたきマッサージを1セット(20~30回)実施します。まばたきマッサージの際は、上下まぶたのマイボーム腺がしっかり接するように、飼い主様の手で優しく目の開閉を行いましょう。 まつげの内側に整列している小さな点がマイボーム腺の開口部です。温めると油分の分泌が良くなります。★温めは1日1~2回、まばたきマッサージは1日3セットを目標に実施しましょう。継続的に実施することが望ましいので、無理せず少しずつ慣らしましょう。 ▶ドライアイを予防するには? 涙は、粘液・水成分・油成分が混ざり合っており、目の表面の潤い保持・栄養供給・汚れや病原体除去などの働きを担っています。ドライアイとは、涙の量が少なくなったり、涙の質が悪くなって目の表面が乾いたりしてしまう状態のこと。悪化すると角膜潰瘍や角膜炎を引き起こすこともあるので注意が必要です。ドライアイを予防するには、涙の分泌を良くし、質を高めることが有効です。また、生活環境のちょっとした改善でドライアイを予防したり症状を軽減したりすることができます。●加湿:室内の湿度を上げることで、目の乾燥を防ぐことができます。●風防止:風が直接当たらないようにするための工夫が必要です。例えば、車の窓を閉める、扇風機やエアコンの風が直接当たらないようにするなど。●栄養補助食品の利用:オメガ-3脂肪酸を含むサプリメントが涙の質の改善に役立つことがあります。 ▶涙やけの対策は? 目ヤニなどを放置すると目の周りが常に濡れ、涙の跡が赤黒く汚れることがあります。この状態は「涙やけ」と呼ばれ、放置していると目の病気に繋がる可能性もあるため、きちんと対処してあげる必要があります。 【対策】1. 濡らしたコットンなどでこまめに涙を拭きとりましょう。2. 目の周りの被毛をカットし、清潔に保ちましょう。3. 食物アレルギーが起因している場合もあるので、フードの切り替えも検討してみましょう。目の病気が原因で涙の量が増えていることもあるので、涙やけがひどい場合は一度受診してください。 ▶食物アレルギーが心配な場合は… 当院には犬と猫の食事、栄養管理について専門知識を持つ『栄養マイスター』の愛玩動物看護師が在籍しています。愛犬・愛猫の食事選び、与え方などについて、ご家族様のライフスタイルも考慮した上でアドバイスを提供し、サポートさせていただきます。愛犬・愛猫の食事について少しでも不明な点がありましたら、遠慮なく当院スタッフにご相談ください。 まとめ 目の病気の症状は、充血や黒目の白濁などの目に見えるものから、気付きにくいものまでさまざまです。飼い主様が症状に気づいて来院した時には、治療が困難になるほど病状が進行してしまっているケースも多々あります。今回ご紹介したケアを日々意識して行うことは、眼科疾患の早期発見に大変有効ですので、ぜひご家庭で実践してみてください。また、「黒目が白濁しているのは糖尿病による白内障だった」「よくぶつかるのは神経疾患による視力低下が原因だった」など、目の症状が眼科疾患以外の病気によって引き起こされている場合も少なくありません。年に一度は健康診断を受診し、全身の健康状態を確認するようにしましょう! ▶年1回の健康診断には、ペットケアクラブがおすすめです!