【症例】子犬の足をくじいた事故による「脛骨近位成長板骨折」の手術と治療経過|スピッツ
症例紹介
症例プロフィール
- 犬種:スピッツ
- 年齢・性別:4ヵ月齢 メス
- 体重:4.5kg
- 病名:左側脛骨近位(けいこつきんい)成長板骨折
主訴・来院時の症状
「昨日、足をくじいてから左の後ろ足を上げて痛がっている」という主訴で来院されました。左後ろ足を完全に浮かせた状態(挙上)で地面につけることができず、膝のすぐ下の骨(すねの骨の上部)に強い痛みと腫れが認められました。
検査と診断

レントゲン検査の結果、膝関節のすぐ下にあるすねの骨(脛骨)の成長板部分がずれてしまっている「左側脛骨近位成長板骨折」と診断しました。
【成長板骨折(骨端板骨折)とは?】
生後数ヶ月〜1年未満の成長期の子犬には、骨が伸びるための軟骨組織である「成長板(成長軟骨帯)」が存在します。この成長板は通常の骨よりも構造的に柔らかく脆いため、ジャンプや着地の失敗、足をくじくといった小さな衝撃でも簡単に剥がれるように折れてしまうことがあります。
成長板がずれたまま放置されたり、成長板を強固に固めすぎたりすると、骨の成長が止まったり足が曲がって変形してしまう危険性があるため、できるだけ早く正確に元の位置へ戻し、成長を妨げない方法で固定する緊急手術が必要です。
治療(手術)
来院翌日(第2病日)に、ずれてしまった成長板を正しい位置に戻し、固定する外科手術を実施しました。
【手術内容の概要】

左側脛骨の内側からアプローチして皮膚を切開し、ズレていた骨折部位を精密に元の位置へ整復しました。 成長期の子犬の骨折治療に適した「ピンニングおよびテンションバンドワイヤー法」を用いて固定を行いました。
術後の経過(レントゲンによる確認と抜釘のタイミング)
子犬は骨の修復(骨癒合)速度が非常に早いため、定期的なレントゲン検査で骨の状態を確認し、成長を妨げないよう適切なタイミングで固定器具を取り外す(抜釘)計画を立てました。
① 術後直後〜術後24日の経過


手術直後のレントゲン写真では、ズレていた成長板が綺麗に整復され、ピンとワイヤーでしっかり固定されている様子が確認できます。 術後11日、24日と経過するにつれて骨の癒合が急速に進行し、痛みも引いて足を着いて歩けるようになりました。
② 術後37日:固定具の抜釘(器具の取り外し)

骨折部位の骨が十分に固定・結合したことを確認し、術後37日に固定していたピンとワイヤーをすべて取り外す(抜釘)手術を行いました。
③ 術後46日〜184日(最終経過確認)

抜釘後も骨の変形や成長の障害(左右の足の長さの違いなど)は認められず、すねの骨は正常に成長しました。 術後184日(抜釘後147日)の最終検診でも、骨折していたとは思えないほど左右均等で頑丈な足へと成長し、元気に走り回れる完全治癒となりました。
獣医師からのまとめ・予防のアドバイス
生後1年未満の成長期の子犬における骨折は、大人の犬の骨折とは全く異なる配慮が必要です。
特に今回のような「成長板(骨端板)」の骨折は、対応が遅れたり不適切な固定を行うと、足が曲がって成長してしまったり、将来的に関節の不自由や歩行障害が残ってしまうリスクがあります。しかし、適切な術式(テンションバンド法など)で迅速に治療し、骨がくっつき次第早期にインプラントを取り外すことで、正常な成長を妨げずにきれいに治すことができます。
【予防のためにご家族ができること】
- 抱っこからの着地や、ソファからのジャンプ、少し高い場所からの落下をできるだけ避ける
- フローリングの床には滑り止めマットを敷く
生後数ヶ月の子犬の骨は非常に繊細です。「足をくじいた」「少し高いところから落ちた」だけでも骨折することがあります。万が一、事故の後に「足を浮かせている」「触ると嫌がる・泣く」「歩き方がおかしい」といった症状が見られた場合は、すぐに当院までご相談ください。
【 症例治療に伴う費用目安 】
手術費:298,000円
入院費:77,500円 (8日間)
その他:122,000円
総額およそ:497,500円
※金額は端数切捨ておよその価格です。
※当院の健康管理サポート会員様は上記費用より割引される項目がいくつかございます。
※病状、状態により条件が異なれば費用も異なります。あくまで本症例の治療の目安としてご参考になさってください。

監修
苅谷動物病院グループ 外科部長
岡村 優