CASE

前十字靭帯断裂

Case13.前十字靭帯断裂 ~脛骨高平部水平化骨切り術(TPLO)~

6歳4ヵ月の犬。2ヵ月前、草むらで遊んでいた時に突然の後ろ脚を引きずり始め、自然に良くなるか経過を見ていたがなかなか良くならない、とのことで来院されました。
診察の結果、左の後ろ脚には体重を掛けることができず、右の後ろ脚とは明らかに太さが異なるほど顕著な筋委縮が起きていることが分かりました。

疾患の説明

大腿骨に対して脛骨が前方に脱臼するのを防ぎ、また脛骨の内旋を制御する役割を担っているのが、前十字靭帯です。
前十字断裂は、大きな力が掛かることにより、この靭帯が完全または部分的に切れて裂けてしまった状態です。

急性の完全断裂は比較的若い犬に発生しやすく、跛行(脚の引きずり)が見られ、時に半月板の損傷を伴います。
部分断裂の場合、初期の診断が難しく、完全断裂に移行することもあります。
断裂は左右両方の脚で起こる場合があり、病態が進むと変形性関節症の悪化を引き起こす原因にもなります。
前十字断裂は外傷に起因するケースが多いですが、下記もその要因となるため注意が必要です。

加齢に伴う靭帯の変性

免疫介在性関節炎

股関節形成不全

膝蓋骨脱臼

副腎皮質機能亢進症

肥満

治療の内容

視診・触診・整形外科学的検査、レントゲンや関節鏡などの画像検査の結果から診断します。
治療法には内科的治療法と外科的治療がありますが、多くの場合、外科的治療が必要となります。
本症例では、現時点で治療成績・機能回復面で最も優れた治療方法と考えられている、脛骨高平部水平化骨切り術(TPLO)を行いました。

脛骨高平部水平化骨切り術(TPLO)とは

脛骨の上部を円周状に切離し、脛骨高平部(下図のaの面)を水平に近づける手術法です。
この手術を行うことで、歩行・運動時の脛骨の前方脱臼が無くなり、膝関節が安定化して、機能回復します。
手術時には半月板の状態も確認し、損傷があれば部分的に半月板を切除します。

手術では緑色の点線部を切断します。
aの面が水平に近づくように、切離した脛骨をずらし、
角bの角度が小さくなったことを確認してプレートで骨を固定します。

治療後の注意点

手術後は5~7日程度の入院が必要となりますが、その後は自宅で管理をして頂きます。
この症例では、手術から数日後には、異常があった左の後ろ脚に体重をかけて歩行できるようになりました。
術後3~4週間は走って遊ぶことは避けていただき、リードを付けての運動に限定しますが、その後は定期的に診察のうえ、徐々に運動量を増加させていきます。