CASE

膝蓋骨内方脱臼

Case15.膝蓋骨内方脱臼 ~膝蓋骨脱臼整復術~

1歳10ヵ月の犬。左の後ろ足が外側に向いてしまい、歩く時にケンケンしてしまうとのことで来院されました。
診察・画像検査の結果、膝蓋骨(膝のお皿)が本来の場所から内側に外れた膝蓋骨内方脱と診断されました。

疾患の説明

膝蓋骨内方脱臼は、主に小型犬に多く見られる疾患です。
膝の伸展機構である、大腿四頭筋・膝蓋骨・膝蓋靭帯・脛骨粗面の配列が不正になることで発生します。

疾患の診断

膝蓋骨脱臼は、触診・レントゲン検査・CT検査などにより診断し、症状の程度により4段階で評価します。
要因としては先天的な場合が多く、成長期に悪化することもあります。
主な症状に、後肢の跛行(引きずり)があり、その程度はたまにケンケンをするようなものから、膝を伸ばすことが困難で正常な歩行ができなくなるものまであります。
重度な症状が認められる成長期の場合は、なるべく早期の外科的治療が推奨されます。
また持続的な症状があるケースや徐々に悪化が認められるケースでも、外科的な治療が推奨されます。

膝蓋骨脱臼のグレード分類

症状評価臨床症状
グレード1手で膝蓋骨を脱臼させることができるが、放すと自然に正常な位置に戻る。関節の屈伸は正常。
グレード2膝蓋骨は自然に脱臼しているが、手で戻すと正常な位置に戻る。大腿骨に軽度の骨格変形がみられることがある。
グレード3膝蓋骨はほぼ脱臼したままで、手で正常な位置に戻してもすぐに脱臼する。大腿骨と脛骨の変形を伴うことがある。
グレード4膝蓋骨は常に脱臼したままで、手でも元の位置に戻すことができない。大腿骨と脛骨の変形が顕著である。

治療の内容

膝蓋骨内方脱臼は1つの術式の手術だけでは治療が難しい疾病です。
この症例は、膝蓋骨内方脱臼グレードⅢと診断され、4つの術式を組み合わせた手術を行い、膝の伸展機構を一直線上に整えました。

「内側リリース術」「関節包縫縮術」「脛骨粗面転移術」「滑車溝深化術」の4つの術式を組み合わせた手術を実施した結果、
内側に外れていた膝蓋骨(写真〇内)を正常な位置に戻すことができました。

治療後の注意点

手術後は数日包帯を巻き、術創を安定化します。その後は徐々に歩行を開始して、早期の運動機能回復を図ります。
手術後は5~7日程度の入院が必要となります。退院後、3~4週間まではドッグランなどで走って遊ぶことは避け、リードを付けての運動に限定します。
回復後も、関節の可動域や歩様を確認のため定期的な通院が必要となります。

当院では、運動機能の回復に有効なウォータートレッドミルなどによるリハビリ指導も行っています。